Wiseの日本事業は、個人向け海外送金から始まり、法人送金、マルチカレンシー口座、カード、銀行との提携、国内決済インフラへの直接接続へと広がってきました。注目すべきは、その都度、日本で提供できる価値を増やしてきたことです。和橋堂では、自社の規制対応と運営基盤を持ち、機能を段階的に拡張してきた判断が、この事例の中心にあると捉えています。
第100回で海外フィンテック3社を取り上げる理由
Japan Digital Asset Weeklyは今回で第100回を迎えます。この節目に、通常のデジタルアセット関連ニュースから少し離れ、Wise、Stripe、PayPalによるPaidy買収の3事例を取り上げます。
3社を選んだ理由は、日本での事業展開を比較的長い期間にわたって追えるためです。法人設立、提携、買収の発表後に、どのような商品や運営体制を築き、顧客との関係を広げてきたのか。その経過には、日本参入を検討する海外企業に加え、海外企業との提携や自社の新規事業を考える日本企業にも参考となる材料があります。
第1回は、自社で規制対応とサービス運営を担いながら、日本事業の範囲を広げてきたWiseです。
2014〜2016年:法人設立、登録、本格提供
当時TransferWiseという名称だった同社は、2014年6月に日本法人を設立しました。2016年9月の本格サービス開始時の発表によれば、資金移動業者としての登録は2015年8月に取得しています。法人設立、登録、日本語での本格提供は、それぞれ異なる年に進みました。
初期の提案は、個人向けの海外送金という明確なものでした。手数料と為替レートを分けて示すことで、顧客が費用を理解しやすくする。利用者は、普段使っている金融サービスを全面的に切り替えなくても、まず1回の送金から試すことができました。
当時の送金上限は1件100万円でした。大型取引を扱えない制約はありましたが、その範囲内でサービスを必要とする顧客に提供し、日本での運営を積み重ねることができました。
送金から受取・保有・決済へ
Wiseは2018年に法人向け送金、2020年7月にマルチカレンシー口座、2021年1月にカードを日本で提供しました。顧客との接点は、海外へ送金する場面から、外貨を受け取り、保有し、支払う場面へと広がっていきます。
この展開では、個々の機能だけでなく、機能同士のつながりが重要です。最初は海外送金に使っていた顧客が、別の用途でも同じサービスを使うようになれば、利用関係は厚みを増します。新規顧客の獲得と、既存顧客が使い続ける理由を増やすことを、同時に進められる可能性があります。
GMOあおぞらネット銀行との提携が示す変化
2023年5月、GMOあおぞらネット銀行はWiseの機能を活用した法人向け海外送金サービスを開始しました。同行は、法人顧客から海外送金への要望が寄せられていたことを説明しています。
ここでは、Wiseが国際送金の機能を、銀行が既存の顧客接点を持ち寄っています。利用者に直接選ばれるサービスとして発展してきたWiseが、日本の銀行のサービスを支える供給者にもなったという変化です。
国内金融機関にとっても、海外フィンテックを検討する視点が広がります。自社と競合する部分だけでなく、自社の顧客に必要な機能を補えるかという観点です。提携価値は知名度だけでなく、既存顧客のどの課題を解決できるかによって具体化します。
高額送金と全銀システムへの接続
2024年3月、Wiseは第一種資金移動業の認可取得を発表し、対象となる送金について最大1億5,000万円に対応する計画を示しました。従来の100万円という上限では扱えなかった取引へ、提供範囲を広げる動きです。なお、この高額送金の上限は対象サービスに適用されるもので、口座内のすべての機能に共通する上限ではありません。
さらに、2024年10月には全銀システムへの参加承認を受け、2025年11月に実際の接続へ進みました。承認から稼働までには1年以上あり、日本でサービスを始めてからは約9年が経過していました。
日本事業を運営しながら、より深いインフラ接続へ進んだ順序が見て取れます。最初の商品を提供するために必要な機能と、その後の事業拡大を支える機能を、時間軸の中で積み上げてきました。
日本企業がこの事例から読み取れること
和橋堂の分析では、Wiseの核となる判断は、自社の規制対応と運営基盤を持ちながら、顧客に提供できる機能を段階的に増やしたことです。商品、販路、送金上限、インフラ接続の拡張は、それぞれ事業の異なる制約に働きかけています。
日本企業が海外企業との提携を検討する場合も、現在の商品一覧に加え、どの機能を継続して構築してきたかが重要な判断材料になります。自社の顧客接点と相手の機能を組み合わせたとき、どの業務や顧客体験が改善するのか。GMOあおぞらネット銀行との事例は、その検討を具体化する材料です。
また、Wiseの日本向け公式サイトは、国内で150万人以上のユーザーが利用しているとしています。その背景には、約10年にわたる商品と事業基盤の拡張があります。信頼できるサービスとして定着し、複数の用途で使えるようになることは、継続的な顧客関係を支える要素になります。
これは、日本では一度獲得した顧客が自動的に離れなくなるという意味ではありません。利便性や使い慣れた体験を継続して提供することで、顧客が使い続ける理由を厚くしていく。その積み重ねに、参入後の投資の意義があります。
今後の注目点
今後は、高額送金、銀行経由の提供、国内決済インフラへの接続が、実際の利用や顧客体験にどうつながるかが注目点です。機能の追加だけでなく、その機能によって誰のどの課題が解決され、利用関係がどう広がるかを見る必要があります。
次回はStripeを取り上げ、日本の金融機関との提携と、自社による国内向けの商品開発をどのように組み合わせてきたかを追います。
和橋堂について
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