金融庁が全暗号資産交換業者に詐欺対策強化を要請――国内マネロン事例と不動産取引リスク|Japan Digital Asset Weekly Ep. 91

金融庁は2026年8月6日、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)に対し、全ての暗号資産交換業者が詐欺被害防止策を強化するよう要請しました。

背景には、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害急増、被害金の移転に暗号資産が使われるケースの増加、非対面サービスや対策の弱い事業者が狙われている状況があります。今回のポイントは、疑わしい取引を事後的に届け出るだけでなく、不審な出庫が完了する前に介入することへ重点が移っている点です。

金融庁が全交換業者に求めた11の詐欺対策

8月6日の要請は、事業規模にかかわらず全交換業者を対象としています。一方、各対策の深度は、事業内容、提供サービス、不正利用の発生状況などに応じたリスクベースのものとされ、システム改修に時間がかかる場合には計画的対応も求められています。

主な内容は次のとおりです。

  1. 本人確認書類の真正性確認、口座開設目的の実態把握、高リスク顧客への厳格な確認
  2. 第三者の指示による口座開設・暗号資産購入・出庫の危険性についての注意喚起
  3. 法定通貨入金や暗号資産購入後の一定期間の出庫制限・遅延、高額・高頻度の早期出庫の確認
  4. 出庫先アドレスの事前登録、詐欺関連性の確認、新規登録先への出庫遅延
  5. リスクに応じた出庫上限と機動的な見直し
  6. 顧客属性、取引、端末、アクセス環境、最新の詐欺シナリオを組み合わせたモニタリング
  7. 検知後の迅速な顧客確認、取引保留・制限、口座凍結、夜間・休日を含む対応、必要な疑わしい取引の届出
  8. なりすましが疑われる場合の、フィッシング耐性を持つ多要素認証
  9. 法定通貨の振込人名義と暗号資産口座名義の一致確認
  10. 詐欺の手口、口座悪用方法、対応事例の事業者間共有
  11. 警察への迅速な情報提供と連携強化

これは法律そのものではありません。しかし、リスクに応じて顧客利便を制約する出庫遅延なども、詐欺防止のために検討すべきだという明確な監督上のシグナルです。

2025年の統計と検挙事例から見る国内の実態

今回の分析では、警察庁JAFICの年次報告書と、別資料である犯罪収益移転危険度調査書を区別して参照しています。

犯罪収益移転防止に関する年次報告書2025によれば、2025年の疑わしい取引の年間通知件数は全業態合計で1,019,405件でした。暗号資産交換業者からの通知は44,335件で、2024年の22,667件から約95.6%増加しています。疑わしい取引の届出は分析の端緒となるリスク情報であり、犯罪の確定件数ではありません。

同年、疑わしい取引情報を端緒として検挙された事件は1,110件、捜査着手後に情報を活用して検挙された事件は別に3,026件でした。端緒事件のうち詐欺関連事犯は960件、86.5%を占め、銀行口座や暗号資産口座の不正取得・譲渡、SNS型投資・ロマンス詐欺、ニセ警察詐欺、還付金詐欺などが含まれます。

組織的犯罪処罰法に係るマネロン事犯の検挙は1,777件で、前年比515件、40.8%増でした。前提犯罪では詐欺が795件で最多です。

暗号資産に直接関係する検挙例も記載されています。特殊詐欺グループのメンバーらが、相対取引を利用し、犯罪収益で購入された暗号資産を国外交換所で別の暗号資産へ交換し、別ウォレットへ移転した後、現金に交換した事例です。関係者は犯罪収益等隠匿で検挙されました。

ここでは詐欺とマネロンを区別する必要があります。被害者がだまされて暗号資産を送る段階は、暗号資産を利用した詐欺被害です。その犯罪収益の出所、所有者、移転先を隠す行為がマネロンの段階に当たります。

別資料である2025年犯罪収益移転危険度調査書は、法人名義口座で受け取った詐欺被害金を暗号資産へ交換して別ウォレットへ移す手口や、複数ウォレットを経由して相対屋で現金化する類型を示しています。

暗号資産交換業者が負う現行のAML/CFT義務

暗号資産交換業者は、犯罪収益移転防止法上の特定事業者です。現行の主要な義務には、次のものがあります。

  • 顧客の本人特定事項と、法人顧客の実質的支配者の確認
  • 確認記録・取引記録の作成と保存
  • リスクに応じた継続的顧客管理と顧客情報の更新
  • 疑わしい取引に該当するかの判断と届出
  • 対象となる他の規制事業者への移転に伴う、トラベルルール上の送付人・受取人情報の通知

疑わしい取引の届出は、参考事例に該当すれば自動的に犯罪と判断する制度ではありません。顧客属性、取引時の状況と目的、事業者が保有するその他の情報、その情報が最新であるかを総合的に検討します。不審な兆候があるため追加確認や一時的な制限を行うことと、顧客によるマネロンを認定することは別です。

8月の要請は、この既存の顧客管理・取引モニタリング・届出判断で用いる情報を、詐欺被害の防止にも迅速に使うよう求めています。顧客への連絡、取引保留、認証の強化、口座凍結などを夜間・休日にも行うには、判断基準、権限分配、証跡保存、当番体制まで実装する必要があります。

7月の金商法改正で変わること・変わらないこと

2026年7月の改正法は、暗号資産取引の主要な規制を資金決済法から金融商品取引法へ移すものです。7月15日に成立し、7月23日に公布されましたが、暗号資産関連の主要部分はまだ施行されていません。公布から1年以内の政令で定める日に施行されます。

改正は、暗号資産の情報公表、顧客の適合性を踏まえた体制、市場監視、不公正取引規制など、投資者保護と市場の公正性を強化します。

一方、これを交換業者に対する新しいAML法と説明するのは正確ではありません。暗号資産交換業者は既に犯罪収益移転防止法上の特定事業者であり、取引時確認、記録保存、疑わしい取引の届出、トラベルルールに基づく送付人・受取人情報の通知などの義務を負っています。

したがって、8月の詐欺対策要請、既存のAML/CFT法制、今後施行される金商法上の市場規制は、相互に関係しつつも別々に実装を整理する必要があります。

暗号資産を用いた不動産取引のマネロンリスク

暗号資産に関するマネロンリスクは、交換所内で完結しません。4月28日、金融庁、財務省、国土交通省、警察庁は、不動産業界と暗号資産業界の団体に対して共同要請を行いました。

要請が示した論点は、大きく三つあります。

第一に、不動産業者や買主から暗号資産を受け取り、売主に法定通貨を支払う行為は、その設計によって無登録の暗号資産交換業に該当する可能性があります。「決済支援」などの名称だけで法的性質は決まりません。

第二に、暗号資産交換業者に対し、不動産売買代金を暗号資産で受け取った顧客が、その属性に見合わない高額取引を行おうとする場合などには、厳格な取引時確認、疑わしい取引の届出、事件性が疑われる場合の警察への通報を適切に行うよう求めました。

第三に、外為法上の報告です。海外から3,000万円相当額を超える暗号資産などを受領した場合には、支払又は支払の受領に関する報告書が必要となる可能性があります。非居住者による国内不動産の取得にも報告義務があり、2026年4月1日以降の取得は目的を問わず報告対象です。

交換業者のモニタリングでは、資金源と資産形成経緯の確認が重要になります。高額な暗号資産の入庫が、実際の不動産売却代金なのか、売却代金を装った犯罪収益なのか、無登録仲介者を含む仕組みの一部なのかは、アドレススクリーニングだけでは判断できません。売買契約、対象物件、相手方、決済経路、経済合理性、クロスボーダー属性まで確認する必要があります。

海外事業者が日本参入前に確認すべき事項

日本参入を検討する交換業者、ステーブルコイン関連企業、コンプライアンス事業者は、次の実装を確認する必要があります。

  • 口座の実質的な利用目的を確認し、高リスク顧客へ厳格な措置を適用できるか
  • 取引やアドレスを検知した理由を説明・記録できるか
  • 監査記録を残したまま出庫を遅延・制限できるか
  • 夜間・休日にも顧客確認とエスカレーション判断ができるか
  • 顧客、取引、ウォレット、端末、アクセス環境の情報を組み合わせられるか
  • 不動産取引に関係する暗号資産の資金源と経済目的を検証できるか
  • 決済スキームが無登録交換業に該当し得るかを確認できるか
  • 8月の要請、既存の犯収法、外為法上の報告、今後の金商法対応を分けて管理できるか

日本の方向性は、単なる監視強化ではありません。事後報告だけでなく、被害や出庫の前に介入する運用体制が問われています。