SMBC日興証券のDeFi Gateway構想:運用リターンと手数料はどう両立するか

SMBC日興証券は、投資家がDeFiへ流動性を供給するための「DeFi Gateway」を開発しています。証券会社が担いうる役割は、投資戦略の選択、リスク管理、顧客との関係を含みます。事業化で問われるのは、運用やシステムの費用、仲介者への報酬を差し引いた後に顧客へどれだけのリターンが残り、それとサービスの持続性を両立できるかです。料金体系は未公表で、開発完了目標は2027年半ばとされています。2026年10月2日の共同発表

預り資産100兆円と専門部署が示す準備の厚み

同社の2026年6月末の預り資産は100兆円です。ただし、これは既存事業の預り資産であり、投資一任の運用残高やDeFiへの配分額を示す数字ではありません。同社は2025年にHashedが運営するブロックチェーン関連ファンドへ出資し、2026年2月にはDeFiテクノロジー部を設置しました。SMBCグループでもステーブルコインや証券決済の実証が進んでいます。この蓄積を踏まえると、SMBC日興証券は専門能力の整備を進める積極的なプレーヤーです。同社の準備状況を日本の金融機関全般の標準とみなすと、提携先の開拓や開発期間の見積もりを誤る可能性があります。預り資産残高、専門部署の新設、共同ステーブルコイン実証、グループの証券決済実証

DeFi Gatewayで何を実現しようとしているのか

出発点は、投資家が自動マーケットメーカー(AMM)に資産を供給し、取引手数料を受け取る仕組みです。2026年3月に示した構想を踏まえ、10月の発表ではUniswap v4のhooksを使うプール、運用戦略、AIを活用したvaultなどを開発対象に掲げました。hooksはプールの取引前後などにルールを組み込む仕組みで、マネーロンダリング対策や投資家保護を組み込む方針です。開発完了目標は商用サービスの開始日や認可取得を意味しません。当初構想、Uniswap Labsの説明

流動性供給には運用判断が伴います。集中流動性では資金を働かせる価格帯を選び、価格が動けば保有する資産の構成も変わります。価格が設定範囲を外れると、そのポジションは取引手数料を得られなくなります。再配置の費用や、単純に資産を保有した場合と比べた損失が、手数料収入を上回ることもあります。AIが戦略を実行する場合も、目的、許容リスク、停止条件を顧客が理解できる設計が必要です。集中流動性の仕組み、流動性供給のリスク

5者は何を分担するのか

共同主導のSMBC日興証券は当局との対話とコンプライアンス、リスク、ポートフォリオ管理の知見を担い、Nethermindは設計・開発、AI統合、スマートコントラクトの安全性を担います。Uniswap Labsはプロトコル統合と流動性戦略、Baseは同エコシステムへの展開、Nyx Foundationはマーケットメイクとhooksの設計を支援します。金融判断、システム、流動性運用を専門企業が分担する構造です。発表された開発上の分担だけで、将来の顧客に対する契約責任まで確定したとはいえません。各社の役割

金商法登録はどの事業機能と関係するのか

金融庁の登録一覧では、SMBC日興証券は第一種・第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業の登録を持つ一方、確認した暗号資産交換業者一覧には掲載されていません。今回の構想には投資判断や運用が含まれるため、既存の投資ビジネスとの接点があります。和橋堂は、同社が投資戦略の選択・管理という従来の機能をDeFiへ展開する可能性を探っていると捉えています。ただし、既存登録で扱える範囲は対象資産や業務内容によります。顧客との契約、資産の管理、投資判断を誰が担うかによって、追加登録の要否も変わります。金融商品取引業者一覧・2026年8月31日時点、暗号資産交換業者一覧・2026年9月30日時点

顧客の運用収益と証券会社の報酬を分けて考える

プールの取引手数料は流動性提供者の収入となりえます。一方、証券会社側の売上は、提供するサービスと料金体系によって決まります。顧客の投資成果には、取引手数料収入に加え、保有資産の値動き、戦略実行の費用、仲介者への報酬が影響します。この二つを分けると、証券会社の採算と顧客の手取りを一緒に検討できます。

証券会社には取引ごとの手数料、残高に応じた継続報酬、成功報酬といったモデルがあります。実際、日興ファンドラップには、運用資産残高に応じた基本報酬のみの体系と、基本報酬に成功報酬を加える体系があります。投資対象ファンドの費用なども別途生じます。これは既存サービスの事実であり、未公表のGatewayの料金を示すものではありません。日興ファンドラップの費用・リスク資料、2026年6月

和橋堂が注目するのは、費用控除後のリターンが引き受けるリスクに見合うことと、事業者が安全性や管理体制を継続して提供できることの両立です。取引連動なら取引活動、残高連動なら資産の維持、成功報酬なら定義された運用成果が採算を左右します。低い手数料でも必要な管理を維持できなければ事業は続かず、高い運用収益でも費用控除後の顧客の手取りが不十分なら商品としての魅力は下がります。両者をつなぐ商品設計が重要になります。

海外比較はSG-FORGEの分業モデル

フランスのSociete Generale-FORGEは2025年9月、ユーロと米ドルのステーブルコインをMorphoとUniswapへ展開すると発表しました。MEV Capitalがレンディングvaultの設計・配分とリスク管理を担い、Flowdeskが市場の流動性を担う構造です。発行した金融資産の利用先を広げるSG-FORGEと、投資家による流動性供給を出発点とする日興では、事業の入口が異なります。比較から読み取れるのは、金融機関が自社の強みとDeFi専門企業の機能を組み合わせ、役割を割り当てていることです。同じ制度や収益性が成立しているという比較ではありません。SG-FORGEの発表

事業化に向けて確認したい設計

国内企業がこの取り組みを参照する際は、自社が担う機能と、それに対応する責任・対価を具体化することが有用です。運用判断を支援するなら目的と制約、取引を制御するならルールを適用する場所、顧客向け報告ならリスクと費用控除後の成果の示し方が問われます。今後は対象資産、顧客層、契約、資産管理、投資判断、料金体系の開示に注目したいところです。これらがつながって初めて、開発プロジェクトが継続可能な金融サービスへ進む条件を評価できます。

和橋堂について

和橋堂は、デジタル資産/ブロックチェーン業界に特化した専門コンサルティングファームです。金融 x ブロックチェーンのビジネスを手掛けるグローバル企業の支援に強みを持っており、社内ワークショップの開催からデジタル資産を活用した運用戦略の構築まで個別ニーズに応じたサービスを提供します。

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