欧州出張から見直す日本の暗号資産規制――金商法移行は何を変えるのか

日本の暗号資産規制の金商法への移行は、情報提供と取引の公正性を投資者保護の観点から整える変更です。一方で、暗号資産を有価証券と同一視するわけではなく、ステーブルコインの区分も残ります。スペインの三つのイベントで交わされた議論を手掛かりに、金融庁の資料と立法経過から、日本がどこを変えようとしているのかを考えます。

欧州のパネルで考えた既存金融と暗号資産の接点

先日、バルセロナで開催されたEuropean Blockchain ConventionとETH Spain、マヨルカのRegSympに参加・登壇し、欧州の金融機関、規制当局、ブロックチェーン事業者などと意見を交換しました。パネルでは、暗号資産の規制と既存の金融規制をどう接続するかが論点となり、証券業務で整備してきた方針や管理態勢を暗号資産サービスの準備に活用できたという話も聞きました。

その経験から改めて見直したのが、日本の金商法移行です。日本は2017年に暗号資産交換業の制度を開始し、2023年には電子決済手段に関する制度を導入しました。さらに2026年7月15日に関連改正法が成立し、7月23日に公布されています。今回の改正を「暗号資産が金融に近づく」とだけ表現すると、具体的に何を保護し、何を規制するのかが見えなくなります。

出典:金融庁の制度概要、衆議院の審議経過

1,400万超の口座数が示す規制見直しの背景

金融庁が2026年4月に公表した改正法案説明資料は、国内の暗号資産口座開設数を1,400万超としています。これは人数ではなく口座数であり、同じ人が複数の口座を持つ場合があります。また、資料が引用した時点の数値であって、2026年9月現在の最新値ではありません。同資料は、利用者の取引動機について、長期的な値上がりへの期待が中心であるとの調査結果も挙げています。

出典:金融庁説明資料・2ページ

ここで重要なのは、数字の大きさだけではありません。投資対象として利用が広がっている以上、資産の内容を理解するための情報や、公正な価格形成を支える規律が重要になります。金融庁のワーキング・グループ報告の解説も、こうした課題と金商法が扱ってきた問題との親和性を示しています。私は、今回の移行を、暗号資産の利用実態に合わせて保護の重点を見直すものと捉えています。

出典:金融庁・WG報告の解説

情報公表とインサイダー取引規制は何を変えるか

改正の柱の一つが情報公表です。対象となる募集・売出しでは発行者に情報公表を求め、発行者による資金調達を伴わずに取引業者が独自に取り扱う場合などには、取引業者側に公表責任を置く構造です。もう一つは、暗号資産についてのインサイダー取引規制の整備です。取扱開始・中止などの重要事実を巡り、公表前の情報を利用した取引等に規律を設けます。

出典:金融庁説明資料・3、5ページ

この二つは異なる問題への対応です。情報公表は投資者が判断するための材料を整えるもの、インサイダー取引規制は一部の関係者が先に得た情報を不公正に利用することに対応するものです。「規制が厳しくなる」という一言では、この違いが抜け落ちます。制度の評価では、情報の質や取引行動が実際にどう変わるかまでを見る必要があります。

金商法移行で変わらない区分もある

金商法に移る暗号資産は、有価証券とは異なる金融商品として位置付けられます。株式と同じ権利が生まれるわけでも、既存の証券規制が一律にそのまま当てはまるわけでもありません。また、電子決済手段として扱われるステーブルコインは、今回の暗号資産規制の移管とは別の枠組みに残ります。

出典:金融庁・WG報告の解説

欧州の議論を聞いて印象に残ったのも、既存金融の経験を利用できることと、すべての商品を同じ制度で扱うことは別だという点です。日本の改正も、投資者保護の共通原則を取り入れながら、暗号資産固有の性質や、決済に用いられる商品の区分を残すものとして理解する方が正確です。

日本の事業者と経営者が注目すべき実施段階

成立・公布と、各規定の施行や実務運用は区別する必要があります。金融庁の説明資料でも、複数の項目について具体的な内容を政令・内閣府令に委ねています。本稿は改正の枠組みを説明するもので、紹介した規定がすべて既に運用されているという意味ではありません。

出典:衆議院の審議経過、金融庁説明資料

国内の経営者や事業責任者にとっては、情報公表の役割分担、取引情報を扱う範囲、既存の態勢を活用できる部分と追加対応が必要な部分が検討対象になります。ただし、制度変更から市場拡大や収益増加が自動的に導かれるわけではありません。保護の実効性と実務負担の両方を、詳細ルールや運用の進展に即して見ていくことが重要です。欧州出張は、日本の制度をその具体的な接続部分から捉え直す機会になりました。

和橋堂について

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