2026年8月21日、Laser Digital Japanが暗号資産交換業者として登録されました。同社によれば、日本の暗号資産交換業における新規参入としては約4年ぶりです。
では、その約4年間、日本の暗号資産市場では何が起きていたのでしょうか。
「新しい交換業者が登録されなかった」と聞くと、日本市場が閉ざされていた、あるいは規制当局がライセンスを凍結していたようにも見えます。しかし、実際の市場を振り返ると異なる姿が見えてきます。
KrakenやCoinbaseといったグローバル取引所が日本から撤退する一方、Binanceは既存の登録業者を買収することで日本市場へ再参入しました。さらに、ステーブルコインには暗号資産とは異なる制度が設けられ、USDCの一般向け流通が実現。2026年には新しい仲介業制度も始まりました。そして暗号資産規制そのものについても、資金決済法から金融商品取引法へ移す大規模な制度改革が成立しています。
つまり「空白の4年間」は、何も起きなかった期間ではありません。日本市場への参入構造そのものが作り替えられた期間だったと見る方が実態に近いでしょう。
「空白の4年間」は市場停滞を意味しない
Laser Digital Japanが2026年8月に登録されるまで、暗号資産交換業への新規参入には約4年間の空白がありました。ただし、この事実から「金融庁が4年間、新規ライセンスを凍結していた」と結論付けることはできません。公表情報から確認できるのは、あくまで新しい暗号資産交換業者の登録が途絶えていたという結果です。その間にも、日本市場への参入や規制制度の整備は続いていました。この違いは、日本の暗号資産市場を評価するうえで重要です。
2022~2023年:KrakenとCoinbaseが撤退
2022年末から2023年初頭は、世界的に暗号資産市場が厳しい環境にありました。Krakenは2022年12月、日本での事業を2023年1月31日付で停止し、暗号資産交換業を廃止すると発表しました。同社は日本市場を取り巻く環境と世界的な暗号資産市場の低迷を踏まえ、事業成長に必要なリソースを日本へ投入することが困難と判断したと説明しています。
Coinbaseも2023年1月、日本事業の全面的な見直しと既存顧客との取引停止を発表しました。
大手海外取引所が相次いで撤退したことで、日本市場への参入障壁の高さが改めて意識された時期でもあります。
しかし、その一方でBinanceは全く異なる方法を選んでいました。
Binanceは既存登録業者の買収で日本へ再参入
Binanceは2022年11月、国内で暗号資産交換業登録を保有していたSakura Exchange BitCoinの全株式を取得しました。その後、同社はBinance Japanへ社名変更し、2023年8月に日本居住者向けのサービスを開始しました。
重要なのは、Binanceが新たな暗号資産交換業登録をゼロから取得して日本へ戻ったわけではないことです。すでに登録を保有する国内企業を買収し、その法人を軸に日本事業を再構築しました。これは「新規登録件数」だけを見ても、日本市場への海外企業の参入実態を正確には把握できないことを示しています。
もちろん、既存登録業者の買収が簡単な近道という意味ではありません。買収後のガバナンス、コンプライアンス、システム、顧客管理などを含め、実際の事業内容に即した体制を構築する必要があります。
それでも、グリーンフィールドで新規登録を目指す以外の参入方法が実際に使われた代表例として、Binance Japanは重要なケースです。
2023~2025年:ステーブルコインという新しい制度
2023年6月1日、日本では電子決済手段等取引業に関する新しい制度が始まりました。一定の法定通貨連動型ステーブルコインについて、その流通・仲介等を規制するための枠組みです。
これにより、ステーブルコインはBitcoinやEtherなどの暗号資産とは異なる規制ルートで流通させることが可能になりました。
ただし、制度ができたからといって、すぐに商用サービスが始まったわけではありません。国内第1号の電子決済手段等取引業者となったのは、2025年3月4日に登録を完了したSBI VCトレードです。同社は同月26日、USDCの一般向け取扱いを開始しました。制度開始から最初の登録、そして実際の商品提供までには時間差がありました。
この「制度成立」と「商用化」を分けて見ることは、日本のデジタルアセット市場を分析する際に非常に重要です。
2026年:暗号資産にも「仲介業」という新しい選択肢
2026年6月1日には、「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」という新しい制度が始まりました。
この制度では、暗号資産交換業者や電子決済手段等取引業者から委託を受け、一定の売買・交換の媒介を行う事業者が、新しい登録類型のもとで業務を行えるようになりました。
ポイントは、すべての事業者が交換業者と同じ機能を自社で保有することを前提としない制度が登場したことです。
利用者にどのようなサービスを提供するのか、誰が資産を取り扱うのか、誰が取引を執行するのかによって、必要な規制上の立場を分ける考え方がより明確になってきました。
暗号資産規制そのものも資金決済法から金商法へ
同じ時期、暗号資産そのものの規制体系についても大きな見直しが進みました。金融庁は2025年、暗号資産が国内外で投資対象として位置付けられるようになっていることを踏まえ、制度の検証を進めました。
その議論では、情報提供、無登録業者への対応、不適切な投資勧誘、価格形成、公正な取引、セキュリティなど、従来の金融商品規制との親和性が高い課題が整理されました。
その結果、2026年7月15日に成立した改正法では、暗号資産取引に関する主要な規制を資金決済法から金融商品取引法へ移す方針が定められています。
ただし、暗号資産が株式などの有価証券と全く同じ扱いになるわけではありません。金商法上、有価証券とは異なる金融商品として、その性質に応じた規制を設ける考え方です。
また、ステーブルコインはこの移管の対象外で、引き続き別の枠組みで扱われます。
「4年間のライセンス凍結」と呼ぶべきではない理由
こうして振り返ると、「4年間ライセンスが凍結されていた」と表現することが適切でない理由が分かります。
新規暗号資産交換業者の登録には確かに約4年間の空白がありました。しかし、その間にも海外企業は買収によって参入し、新しいステーブルコイン制度が作られ、USDCが国内で流通し、新しい仲介業制度まで登場しました。
さらに暗号資産規制そのものも再設計されています。止まっていたのは、日本のデジタルアセット市場全体ではありません。新しい暗号資産交換業者の登録という一つの指標です。
日本市場への参入方法はどう変わったのか
現在、日本市場を検討する海外企業にとって重要なのは「暗号資産交換業のライセンスを取れるか」だけではありません。
自社で登録法人を構築する方法があります。既存の登録会社を買収する方法も実際に使われています。商品を国内の登録事業者経由で流通させることが適切なケースもあります。事業内容によっては新しい仲介業制度が選択肢になる可能性もあります。
当然ながら、それぞれ必要な資本、期間、ガバナンス、顧客との関係、規制上の責任は異なります。
重要なのは、最初から特定のライセンス取得を目的化するのではなく、日本で行いたい事業の機能を整理し、それに合った参入構造を設計することです。
今後の注目点
次に重要になるのは、2026年に成立した暗号資産規制改革の具体的な実装です。
暗号資産取引の主要な規制を金商法へ移す方向性は決まりましたが、新制度への移行を含む詳細な運用を引き続き確認する必要があります。この制度変更によって、現在の暗号資産交換業や仲介のあり方も今後変化していく可能性があります。
Laser Digital Japanの登録は、2022年の制度へ単純に戻ったことを意味するものではありません。むしろ、この4年間に作り替えられた市場へ、新しい事業者が入り始めた出来事と見る方が適切でしょう。
和橋堂について
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