暗号資産取引所Bitgetは2026年8月3日、日本居住者向けサービスを段階的に終了すると発表しました。7月にはBybitも日本居住者に対する是正措置を完了しています。
無登録の海外取引所が日本から完全にいなくなったわけではありません。また、日本から技術的にアクセスできるサービスがゼロになったわけでもありません。
ただし、業界を継続的に見てきたWakyodoの実感としては、日本の利用者がメインの海外取引所として使ってきた主要な選択肢は、実務上ほぼ一掃されたと評価しています。
今回の変化は利用者の取引環境だけでなく、国内の登録業者の競争条件や、海外企業の日本参入方法にも影響します。
利用者への影響: 国内登録業者で取り扱われていない銘柄やデリバティブ、運用商品を利用する選択肢が減ります。
国内業界への影響: 規制対応コストを負う登録業者と、無登録のまま商品面で優位に立つ海外業者との競争条件が是正されつつあります。
海外事業者への示唆: 日本語対応だけで日本の顧客を獲得するモデルではなく、登録、提携、商品設計、ブランド構築を含む独立した参入戦略が必要です。
BitgetとBybitで何が起きたのか
Bitgetの公式発表によると、同社は8月3日から日本居住者の新規登録を停止しました。日本居住者と判定されたアカウントは、11月1日から決済専用モードへ移行する予定です。新しいポジションの作成や投資商品の利用開始ができなくなり、12月31日以降は残っているポジションが強制決済される予定です。暗号資産の出金機能は継続するとしています。
Bybitは7月24日付の発表で、7月22日時点で日本居住者に対する一連の是正措置を完了したと説明しました。現在も利用できるのは、暗号資産・法定通貨の出金と、BTC、ETH、USDCへの限定的な暗号資産交換です。
両社の対応は「日本のIPアドレスから一律にアクセスできない」という単純なものではありません。アカウント情報、本人確認、住所証明などを通じて居住地を判定し、該当するアカウントへ機能制限を適用する仕組みです。
なぜ今回は過去の警告と違うのか
日本では、暗号資産交換業を日本居住者向けに提供する場合、金融庁・財務局への登録が必要です。金融庁の無登録業者一覧には、Binance、Bybit、Bitget、MEXCを含む海外事業者への警告履歴が掲載されています。
それでも過去には、警告が公表された後もウェブサイトやアプリを通じてサービスを使い続けられるケースがありました。海外事業者が日本法人や国内拠点を置いていない場合、警告と実際のアクセス環境の間に差が残りやすかったためです。
現在は、警告と公表だけでなく、アプリ流通への対応、居住地確認、KYC、住所証明、取引所自身によるアカウント制限が組み合わさっています。
たとえばBitgetは、2025年2月の公式案内で、日本のApp Storeからアプリが削除されたことを認めました。当時はブラウザ版やGoogle Playなどの経路が残っていましたが、2026年の発表はアカウント自体の機能を段階的に制限する内容です。
規制上の警告が、利用者が実際に使える機能の縮小へつながるようになった点が、これまでとの大きな違いです。
Binance Global後の利用者移動
Binanceは、無登録のグローバル版を日本居住者に提供し続けるのではなく、2022年に登録済みのSakura Exchange BitCoinを買収し、2023年にBinance Japanを開始しました。現在の金融庁の登録一覧にもBinance Japanが掲載されています。
一方、日本居住者はBinance Globalを使えなくなりました。しかし、その利用者が全員国内取引所へ移ったわけではありません。より多くの銘柄、デリバティブ、運用商品を求め、Bybit、Bitget、MEXCなどへ移った利用者もいました。
今回BybitとBitgetの利用が大きく制限されたことで、「主要な海外取引所へ移れば同じ商品環境を維持できる」という選択肢が狭まっています。
利用者に生じる不便とDeFiのリスク
規制の実効性が高まることには、利用者側のデメリットもあります。国内の登録業者は、海外大手と比べて取り扱い銘柄、デリバティブ、利回り商品などが限られる傾向があります。
一部の利用者はDeFiへ移る可能性があります。しかし、DeFiは規制やリスクを回避できる便利な代替手段ではありません。秘密鍵を自分で管理し、スマートコントラクト、ブリッジ、流動性、プロトコル運営、税務上の扱いを自ら判断する必要があります。
中央集権型取引所のカウンターパーティーリスクが減る場面があっても、リスクそのものがなくなるわけではなく、利用者が直接負担するリスクの種類が変わります。
FTX Japanが示した国内規制の意味
海外取引所を国内規制の対象とする意味は、FTXの破綻時に具体的に表れました。グローバルのFTXグループが破綻した際、FTX Japanでは顧客資産の分別管理と国内資産保有に関する措置により、顧客資産が保護されました。
2025年5月28日の衆議院財務金融委員会議事録によると、2025年4月25日までに法定通貨約55億円、暗号資産約225億円が顧客によって引き出されています。
これは、日本の規制がすべての損失や不便を防ぐことを意味しません。しかし、グローバル企業が破綻した場合でも、国内で誰が責任を負い、どこに顧客資産が保有されているかが重要であることを示しています。
登録業者にとっての公正な競争環境
国内の登録業者は、本人確認、マネーロンダリング対策、システム管理、顧客資産保護、広告、取り扱い暗号資産の審査など、多くの規制・自主規制対応コストを負っています。
無登録の海外業者が同じ日本の顧客へ直接サービスを提供し、規制対応コストを負わずにより広い商品を提供できれば、登録業者は構造的に不利になります。いわば「正直者がバカを見る」競争環境です。
BybitとBitgetの対応は、その不均衡が是正されつつあることを示します。これは規制強化を全面的に肯定する議論ではありません。商品選択肢が減る問題と、利用者保護・公正な競争環境を分けて評価する必要があります。
改正金商法で何が変わるのか
2026年7月15日、暗号資産取引に関する規制を金融商品取引法の枠組みへ移す改正法が成立しました。金融庁の法案ページで成立状況を確認できます。
金融庁の説明資料では、無登録営業に対する拘禁刑の上限を3年から10年へ引き上げること、証券取引等監視委員会の犯則調査対象に加えること、裁判所による緊急差止命令の対象とすること、一定の無登録業者による売付けについて民事効を整備することなどが示されています。
法律が成立したことと、具体的な制度が施行されることは同じではありません。暗号資産関連部分は2027年にかけて施行が予定されていますが、実際の適用を判断する際は、施行日、政令・内閣府令、経過措置を確認する必要があります。
ただし、無登録で日本居住者へサービスを提供する事業リスクがさらに高まる方向性は明確です。
日本参入を検討する企業が考えるべきこと
日本はもはや、グローバル版のサービスに日本語を追加し、そのまま顧客を獲得できる市場ではありません。規制対応だけを独立した作業として扱うのではなく、事業モデル、商品設計、提携先、ブランド構築、顧客獲得を一つの市場参入戦略として設計する必要があります。
登録業者の買収: 登録基盤を取得できる可能性がありますが、システム、ガバナンス、既存債務、買収後の統合を含む慎重なデューデリジェンスが必要です。
国内登録業者との提携: 自社で規制機能をすべて構築せずに参入できる可能性があります。ただし、顧客関係、収益配分、責任分界、商品管理を明確にしなければなりません。
B2Bでの技術・流動性提供: 日本の個人顧客へ直接サービスを提供せず、登録業者を支える方法です。委託、システム管理、規制対象行為の範囲を確認する必要があります。
商品を限定した段階的参入: 初期の複雑性を抑えられますが、対象市場が小さくなり、差別化が難しくなる可能性があります。
重要なのは、サービス完成後に日本対応を追加するのではなく、参入検討の初期段階で市場構造と規制環境を把握することです。
今後の確認事項
Bitgetの実施状況: 11月1日と12月31日までに、日程、出金方法、居住地判定が変更されないか。
他の海外取引所: 日本居住者向けに同様の制限を導入する主要業者が続くか。
改正金商法の施行準備: 施行日、政令・内閣府令、経過措置がどのように定められるか。
国内登録業者の商品拡充: 海外取引所で利用されてきた商品需要を、国内市場がどこまで取り込めるか。
海外企業の参入方法: 直接参入ではなく、買収、提携、B2B、段階的参入を選ぶ企業が増えるか。
まとめ
Bitgetの日本撤退は、一社が市場から離れるというニュースだけではありません。日本法人、登録、利用者保護上の責任を負わずに、日本市場の収益機会だけを取りに行くモデルが成立しにくくなったことを示しています。
利用者にとって選択肢が減る問題は残ります。一方、顧客資産の保護と、登録業者が不利にならない競争環境の形成には意味があります。今後の焦点は、規制の実効性を保ちながら、国内市場の商品・サービスの魅力をどこまで高められるかです。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律、税務、投資または金融に関する助言を提供するものではありません。
